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出会いの春(中年編)
 
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春には新しい出会いがある。

それはなにも青少年ばかりの特権ではなく、僕のような中年にもある。

ただその違いは、青少年のそれは心ときめくような異性とのものをさすのであろうが、中年のそれは、そうとばかりも言えないところが心なしか寂しいのではあるが。

その男の名はYと言う。
郷里は香川で、高校を出ると同時に名古屋の専門学校に出てきて以来、20年近く名古屋人をしているらしい。

観光分野の勉強をしに来たにもかかわらず、就職先は自動車関連の孫請けだったそうだ。
心ならずも希望職種からは程遠い仕事に就いてしまったものの、今更、田舎に帰るわけにもいかず、何年も薄暗い工場の中で、油の焦げる臭いと薄給に耐えていたそうだ。

と、ここまで書くと、彼は浜田省吾の歌に出てくるような、線は細いが内には燃えたぎる魂を秘めた寡黙な男を想像される方も多いのではなかろうか。

やまちゃん、何キロあるの? と問うと、
110キロしかないですよぉ〜 と眼鏡をずらし、ハンドタオルで顔をくしゃくしゃと拭きながら言う。

うそつけ〜 130キロはあるだろ と言うと。
てへへ 本当は120キロ と言いなおす。

中を取るな、中を! っつーか、乙女でもないのに体重をサバ読むんじゃない!

そんな彼はある日、部品ではなく自分の親指をパンチしてしまったそうだ。
薄れゆく意識の中で彼は思った。やった、これで労災を受けながら公休が貰える。

が、しかし。
そこがブラック企業のブラックたる所以で、労災に加入していなかったらしい。

死にたい気分の彼は僅かの退職金を受け取り、包帯でぐるぐる巻きにされた左手とともに次なる働き口を探した。
何しろ蓄えが無い。彼の給料の殆どは、ケンタッキー、ポテチ、コーラ等に姿を変え、胃袋に詰め込まれてしまっていたのだ。

行き着いた先はサウナ。
正社員だし待遇も悪くない。何しろ社会保険完備だ。

受付やら掃除やら一通りこなせるようになり充実した日々を送っていた彼に、ある日、上司が言った。
Y君、悪いんだけどさあ、いま覗いてきたら刺青のお客さんがおったんだわ。
悪いんだけど出てってもらえるよう言ってきてくれないかなあ。

確かに銭湯やサウナには、そういった注意書きがある。他のお客様のご迷惑になるので入浴はご遠慮下さい、と。
しかし、そんなものは本音と建て前ってやつで、たとえ中でその筋の方と遭遇したとしても、慌てない、騒がない、近付かない、ってのが正しい大人の分別ってものではないか。

もっと言うなら、その上司が気づいた時点で自分で言えばいいものを、相撲取り並の体格をしているって理由だけでY君に委ねるってのは、いかなる了見か。
重ねて言うが、彼は相撲取りの体に乙女のハートを持つ、気の優しいたたのデブに過ぎんのだ。

が、田舎もんの悲しい性で、彼は上司の命令に忠実に従った。

結果、湯の入った桶ごと投げつけられた。
熱いのは何とか我慢できたが、桶の角がでこに当たったのは辛かったらしい。

それでも彼は働き続けた。
不条理な職場ではあったが、サウナ入り放題に魅力を感じていたからだ。
運動しなくても汗が流せるというのは、運動嫌いのデブにとっては天国なのである。

ある日の勤務明け、いつものように痩せると信じ汗を流した後、薄暗い広間で横になりウトウトていると。

掛けたバスタオルの中で股間をまさぐられる気配が。
ハッとその腕の先を見ると、中年の男性客が誘うような目でこっちを見ている。

さすがにこれは彼の琴線に触れたらしく、その日で辞めたらしい。
ハートは乙女であっても精神は健全な男なのである。

その後、宅急便の深夜仕分けやら警備員やらを経て現在に至る。

相撲取りの体に乙女のハートを持ち、されども健全なる男性の精神を宿すという実にややこしい彼の自分探しの旅は、まだまだ続くのであった。

posted by: まーぼー | - | 12:47 | - | trackbacks(0) |-
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